この頃まで障害者施設向けの薬が大半で、居宅療養管理指導による処方ではなかったのですが、2010年、現在の「たろうクリニック」の浦島理事長と知り合います。浦島先生が開業した「はじめクリニック」の処方せんを引き受けるようになったことで、在宅療養患者向けの調剤・配薬が本格化してきました。

 

同時に、「薬だけでは在宅の患者さんを救うことはできない」と痛感する出来事も起こりました。

 

はじめクリニックさんから受けた処方せんに基づき、認知症と精神疾患が進んでいるとおぼしき患者さん宅を訪問。インターホンを何度鳴らしても住人は出てこないのですが、医師の訪問指示書を見るかぎり、自力で外出できそうな状態ではありません。再訪問するのも時間がもったいないので、さらにインターホンを鳴らすと、どうやら人がいる気配はあります。15分ほど粘っていると内側から鍵が開く音がしたので、おそるおそるドアを開けると、汚物のついたおむつを履いたままのお婆ちゃんが、玄関まで這いながら出てきていました。鼻をつく異臭と、ものすごく散らかって不潔そうな室内。目を覆いたくなるような惨状でした。

 

当然、会話も成り立たないのですが、何度も繰り返して薬の説明をすると、本人も相槌を打っていたので、何とか理解してもらえたと思い一包化した薬を渡して帰りました。私が訪問した時には不在だったのですが、その女性は息子さんと一緒に住んでいると聞いていたので、後ほど電話をかけて薬の説明もしました。ところが女性は、分包紙ごと1週間分の薬を一度に飲んでしまったのです。急きょ入院し、胃洗浄で大事には至らずに済んだのですが、息子さんは母親の介護のために仕事ができなくなり、精神的にも参っているとのこと。

 

 

私は、息子さんの負担が幾分かでも軽減できるように、地域のケアマネジャーさんに相談するようアドバイスしましたが、後日、再び薬が出てそのお宅を訪問すると、状況は全く変わっていませんでした。息子さんに確認すると、ケアマネが取り合ってくれなかったとのこと。当時の私は、対応してくれなかったケアマネに怒り心頭でしたが、今になって考えると、私の説明が不十分でした。ケアマネさんとしても、そう簡単に手を出せる状況ではなかったのでしょう。

 

在宅患者さんを本当にサポートするには、薬の知識と薬局だけではダメだと強烈に実感し、以来、私は、在宅医療の点数や介護保険の仕組みについて、しっかり勉強するようになりました。

 

薬局だけでは限界があると痛感した私は、この年の9月居宅介護支援事業所「ケアプランサービスひゅうが」を開設いたしました。今思えば、薬局にとどまらず多方面から支援していく地域包括ケアは必然的な流れだったかもしれません。この経験が今の「プライマリケア」を創る礎になったといえます。