この年、当社の年間売り上げは18億円を突破し、私としてはこの第9期あたりから、企業としての「成長期」に入ったと考えています。「天神BiVi福岡店」を開設し、きらり薬局としては初の天神エリア進出を果たした年でもあります。

 

開設する店舗も増え、新規開業したての医師の苦労を間近に見る機会が増えました。どうしてもストレスフルになって怒りっぽくなるのは当然の成り行きで、私自身も開業当初、売り上げが伸び悩んでイライラしている時期は、実父と喧嘩が絶えなかったことを思い出しました。小さなことがきっかけとなって、喧嘩になってしまう…ストレスが溜まると、人とはそうなってしまうものなのでしょう。

 

開業当初のストレスとは全く異なる、しかし、自分の中では1番苦しいと感じる心境を経験したのもこの年です。大きな目標である「薬局の社会インフラ化、新規出店、組織化、株式上場」を全て達成させる上で、自分の“心の電池”が、もうカラカラだと感じたのです。会社の売り上げは伸びているのだから、大手調剤薬局への売却をはじめ、他の手段でも、表面的には上手く解決することができます。エネルギーをすっかり消耗してしまい、諦めたい自分、逃げたい自分がそこにいました。「私は、ここまで頑張ったんだから」「こんなに大変な思いもしてきたんだし」…心がそう叫んでいました。

 

そんな時、ある人から「黒木くんらしくない」と言われ、ハッとしました。そして、正気に戻ったら色々なものが見えてきました。私は、自分の辛さにしか目が向いてなかった。何度も資本政策をやり直しながら、巻き込んできた株主、期待を抱いて入ってくれた社員の皆さん、現在訪問している患者さん、介護事業者の方々…。

 

「日本を代表する薬局を創る」という夢。それがあってこそ、今まで会社に命を吹き込むことができたのだと思います。そして、自分の人生においても「薬局の社会インフラ化、組織化、株式上場」は達成すべきことだと改めて考えました。 逃げるのは簡単。逃げれば、自分はその瞬間に安全地帯に行けたでしょう。でも、逃げたらどうなるのか。周囲との約束を果たせなかったという気持ちや、人に笑われる夢に、毎日苛まれるはず。

 

うわべを取り繕うことはできても、自分の“最大のパートナー”である自分自身を自ら裏切れば、自身の心に一生の後悔を刻むことになるでしょう。自分をごまかし、 挑戦に向き合わずに生きていくことは、一度きりの人生を創り上げたいという私の想いに反します。ある方が、「最大のリスクは人生を後悔すること」だと言っていました。一度きりの人生、「精一杯やったんだ」と思える生き方をしたいと、強く思いました。 苦しい時、私は目の前のやるべきことを考えるために、30分だけ集中します。そして、どうするべきかという具体的な行動と、期限を決めます。苦しみから逃がれる方法は、目の前に横たわる問題を一つずつ解決するしかありません。方法なんて、ちゃんと考えればたくさんあります。私はこれからも一度きりの人生を最高のものにしたいから、自分を極限まで追い詰め、思い切り成長させて、この道を進みたいと決意を新たにしました。

 

 

ちなみに、小倉店の開業によって、北九州エリアに進出したのはこの年です。『鉄の町・もの作りの町』として発展した土地柄だけに、昔ながらの知人・縁故のつながりが強く、新しい薬局が入り込むのが難しい地域でした。ただ、その分、競合が少なく患者数は大幅に増加。それまで北九州エリアの“最寄り”(とは言え、中間市を越えて折尾・八幡エリアにアクセスするのですから、ちっとも近くありません)だった直方店の業務効率も改善しました。